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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)6057号 判決 1983年2月25日

原告

西田スヱノ

ほか三名

被告

中崎幹夫

ほか二名

主文

1  被告らは各自、原告西田スヱノに対し金三二万八一九三円、原告西田勇、原告西田毅及び原告杉岡秀子に対し各金二一万八七九五円並びに右各金員に対する昭和五四年五月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、これを二〇分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

4  この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告ら

1  被告らは各自、原告西田スヱノ(以下原告スヱノという)に対し金七〇一万五七二六円、原告西田勇(以下原告勇という)、原告西田毅(以下原告毅という)及び原告杉岡秀子(以下原告秀子という)に対し各金四六一万八八一八円並びに右各金員に対する昭和五四年五月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五四年五月一八日午後二時二〇分ころ

(二) 場所 東大阪市宝持二丁目一四番一六号先道路上

(三) 加害車 自動二輪車(一大阪か三六九八号)

(四) 右運転者 被告中崎幹夫(以下被告幹夫という)

(五) 被害者 西田造(以下造という)

(六) 態様 衝突跳ねとばし転倒

2  帰責事由

(一) 被告幹夫

被告幹夫は加害車を保有しているので、自賠法三条の運行供用者責任を負う。

被告幹夫は本件事故について前方不注視等の過失があつたから、民法七〇九条の不法行為責任を負う。すなわち、被告幹夫は加害車を運転して本件事故現場道路を南から北へ向かつて進行し、三叉路にさしかかつたところ、約三〇メートル手前で三叉路の西側歩道西端付近に犬をつれた造を目撃したのであるから、およそ車両の運転者としては常に前方を注視し、安全を確認してから走行し、本件のごとく前方歩道上に犬を連れた老人を発見した以上、直ちに減速し、同人の挙動に注意するとともに、警音器を鳴らしてその反応を確認するなどの措置をとるべきであるのに、これを怠り、漫然加害車を運転し続けた過失により、本件事故を発生させた。

(二) 被告中崎龍二(以下被告龍二という)及び被告中崎俊子(以下被告俊子という)

被告龍二及び被告俊子は被告幹夫の両親であり、左のとおり法定監督義務者としての注意義務を怠つたもので、右義務違反と本件事故の発生との間には因果関係が存するので、いずれも民法七〇九条の不法行為責任を負う。

すなわち、本件事故当日は、被告幹夫の高校二年一学期の中間考査の初日にあたり、同被告は午前中に二教科のテストを受けた後昼食を外食で済ませて帰宅したが、父である被告龍二はもちろん、母である被告俊子もパートの仕事に出掛けて家人は皆不在であつた。そこで、被告幹夫は勉強は夕方以降にやろうと考えて加害車両で特に目的地も定めずドライブに出発した。

ところで、被告幹夫は自動二輪車の運転免許を本件事故の約二ケ月半前に取得したばかりで、加害車両は事故の僅か二〇日位前に両親より被告幹夫に買い与えられたものであつて、その運転技術は甚だ未熟であつたと推察される。

また、被告幹夫は加害車両の購入資金の半分は自分の貯金から出し、残りは両親から借用した旨供述しているが、事故直後その父被告龍二が原告らに対し直接告白したところによれば、加害車両は両親が(恐らく被告幹夫にせがまれて)買い与えたものであつて、被告龍二はその時これを非常に悔んでいたということが明らかである。

近時、モータリゼイシヨンの発達に伴なつて、青少年がオートバイや自動車に強い興味を抱くのが一般的な傾向であることは公知のところであるが、この反面、いわゆる暴走族に代表されるオートバイや自動車を使つての青少年の非行化、犯罪の増大化、更には青少年による交通事故の激増ということが、大きな社会問題となつていることも、また今更ここに指摘するまでもなく周知の事実である。

このような社会的傾向ないし風潮の中にあつては、一般に親は、法定監督義務者として、子に対し、オートバイ等を買い与えるには十分慎重でなければならず、もし買い与えた以上は、常日頃から慎重な運転をするよう何度も忠告したり、子の運転行動について可能な限り直接的に監視をするなどして、子が事故を惹き起さないように一般的な生活指導をする義務があるといわなければならない。このことは、子が運転免許を取得して日が浅い場合や、運転技術の未熟な場合には、一層強く要請されるものである。

しかるに、本件において被告龍二及び被告俊子夫妻は、運転免許を取得したばかりの被告幹夫に対し、余りにも安易に加害車両を買い与えたうえ、右の如き同人に対する生活指導を十分になしたとはいえず、法定監督義務者としての注意義務を怠つたことは明白である。もし、右被告龍二及び被告俊子において、右の如き注意義務の懈怠がなかつたならば、本件事故の発生は未然に防止し得たのである。

3  権利侵害

造は本件事故により頭部外傷(頭蓋内出血)の傷害を受け、このため右事故の五日後である昭和五四年五月二三日死亡した。

4  相続

造の死亡により相続が開始し、妻である原告スヱノ、長男である原告勇、二男である原告毅及び長女である原告秀子がその権利義務一切を承継し、各人の相続分は原告スヱノが三分の一、原告勇、原告毅及び原告秀子が各九分の二である。

5  損害額

(一) 治療費 五六七〇円

(二) 逸失利益 一六八三万二一八〇円

造は昭和三〇年ころより西田武金網と号して金網製造業を営んでおり、長男である原告勇及び二男である原告毅はこれを手伝つていたが、造の本件事故による死亡前二年間における右営業に基く平均収入(販売高)は一か月五五万七五八一円であつた。

本件事故当時造は七八歳で、就労可能年数は六年であり、生活費控除割合は三割である。また、右収入のうち造の寄与率は七割である。

そこで、右月当り収入五五万七五八一円に造の寄与率〇・七を乗じ、これに年間月数一二を乗じ、さらに就労可能年数六年に対応する新ホフマン係数五・一三四を乗じ、これから生活費としてその三割を控除すると、造の逸失利益は一六八三万二一八〇円となる。

(三) 慰藉料 合計一五〇〇万円

造は事故当時七八歳という高齢であつたが、精神面経済面ともに西田家の支柱であつた。

(1) 原告スヱノ 六〇〇万円

(2) 原告勇 三〇〇万円

(3) 原告毅 三〇〇万円

(4) 原告秀子 三〇〇万円

(四) 葬祭費 三五万円

(五) 弁護士費用 合計一三〇万円

原告ら各自三二万五〇〇〇円ずつ

(六) 合計 三三四八万七八五〇円

6  填補

前記損害のうち自賠責保険より一二六一万五六七〇円の支払を受けたので、次のとおり充当する。

(一) 治療費五六七〇円全額

(二) 逸失利益一六八三万二一八〇円のうち四二六万円

(三) 慰藉料一五〇〇万円のうち八〇〇万円

(四) 葬祭費三五万円の全額

7  請求額

前記6の填補により、原告らの請求額は次のとおりである。

(一) 原告スヱノ

(1) 逸失利益 四一九万〇七二六円

前記5(二)の逸失利益額から前記6(二)の充当額を控除した残額一二五七万二一八〇円のうちの相続分三分の一に対応する額

(2) 慰藉料 二五〇万円

前記5(三)の慰藉料合計額から前記6(三)の充当額を控除した残額七〇〇万円のうちの二五〇万円

(3) 弁護士費用 三二万五〇〇〇円

(4) 合計 七〇一万五七二六円

(二) 原告勇、原告毅及び原告秀子

(1) 逸失利益 各二七九万三八一八円

前記5(二)の逸失利益額から前記6(二)の充当額を控除した残額一二五七万二一八〇円のうちの相続分九分の二に対応する額

(2) 慰藉料 各一五〇万円

前記5(三)の慰藉料額から前記6(三)の充当額を控除した残額のうちの四五〇万円を三等分したもの

(3) 弁護士費用 各三二万五〇〇〇円

(4) 合計 各四六一万八八一八円

8  結論

よつて、被告ら各自に対し、原告スヱノは右金七〇一万五七二六円、原告勇、原告毅及び原告秀子は右各金四六一万八八一八円並びに右各金員に対する本件事故の日である昭和五四年五月一八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は争う。

3  同3、4は認める。

4  同5は争う。

5  同6は認める。

三  抗弁(過失相殺)

造は、本件事故現場北方約三〇メートルに信号機及び横断歩道の設置された交差点があるから、道路を横断するときは右交差点で信号機に従つて横断歩道を通行するべきであるのに、これを怠り、しかも左右の安全を確かめないで、本件事故現場において加害車両の直前を左から右に横断した重過失がある。

四  坑弁に対する認否

坑弁は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1は当事者間に争いがない。

二  帰責事由

1  被告幹夫

成立に争いのない甲第二号証の二、第九号証、被告幹夫本人尋問の結果によれば、被告幹夫は加害車両を所有し、日ごろこれを乗りまわして自己の運行の用に供していたことが認められるので、被告幹夫は自賠法三条の運行供用者責任を負う。

成立に争いのない甲第六、第七、第九号証、被告幹夫本人尋問の結果によれば、本件事故現場は、南北に通ずる幅員合計九・八メートル(北行車線三・〇メートル、南行車線三・三メートル、西側歩道一・五メートル、東側歩道二・〇メートル)の制限速度時速四〇キロメートルの直線のみとおしのよいアスフアルト舗装道路と西方からの路地(幅員三・三メートル)の交差する地点であり、南北道路の車道と歩道は縁石で仕切られており、周辺は市街地で、右事故現場から北へ約四〇メートルの地点には信号機の設置された交差点が存すること、被告幹夫は加害車両を運転して時速約四〇キロメートルで南北道路を南から北へ進行して本件事故現場手前にさしかかつた際、当時はるか前方に先行車が存したほか付近には他の車両は走行しておらず、現場手前約二九・八メートルで前方の西側歩道上に犬を連れて身体を東に向け顔を北へ向けて佇立している造を認めたが、その前を通過できると思い、また、造の方でも加害車両の接近を認識しているものとも思い、前方交差点の対面信号等はるか北方に視線を移し、減速をすることも警音器を鳴らすこともなく進行したところ、造が石佇立位置から犬にひつぱられるようにして北行車線上に歩いて出てきたのを前方約一一・三メートルに発見し、危険を感じて急制動の措置をとつたが、まにあわず、北行車線中央付近において自車左前部を造に衝突させて転倒させたこと、以上のとおり認められ、右認定を左右する証拠はない。

右認定事実によれば、被告幹夫は、本件事故直前、前方歩道上に歩行者造を認めたのであるから、その側を通過するに際しては、造の動勢を終始注視し、減速するとともに警音器を吹鳴するなどして自車の接近を歩行者に知らせ、衝突等の事故の発生を未然に防止すべき注意義務を負うものというべきところ、これを怠り、漫然側を通過できるものと軽信して、はるか前方に視線を移して造から目を離し、減速することも警音器を吹鳴することもせず進行した過失により、本件事故を発生させたものと認められる。

従つて、被告幹夫は民法七〇九条の不法行為責任を負う。

2  被告龍二及び被告俊子

未成年者が責任能力を有する場合においても、両親等の監督義務者の監督義務違反と右未成年者の不法行為による損害発生との間に因果関係が存し、右損害について監督義務者に帰責するのが相当と認められる事情の存する場合においては、右監督義務者に民法七〇九条の不法行為責任を負わせるべきものと解し得る。

そこで、本件について案ずるに、成立に争いのない甲第二号証の二、第九号証、被告幹夫本人の供述、弁論の全趣旨によれば、被告幹夫は会社員の父被告龍二、パート職の母被告俊子の長男で、本件事故当時一六歳の高校二年生であり、大学生の姉がいて一家四人が同居していたこと、被告幹夫は右事故の約二か月半前の昭和五四年三月一日自動二輪の運転免許を取得し、同年四月一八日本件加害車両を自己名義にて購入し、約一か月乗りまわして本件事故を惹起させたこと、加害車両の購入代金は三五万円であつたが、被告幹夫は両親から月々四〇〇〇円のこずかいをもらうほか、夏期冬期の学校休暇中にアルバイトをしており、これらを貯めて右購入代金の半分をまかない、残りは両親が支弁したこと、両親である被告龍二、被告俊子は運転免許を有しておらず、右加害車両はひとり被告幹夫がレジヤー、ドライブの類に使用し、右事故当日も学校から帰宅後、勉強前の骨休みのドライブを楽しんでいたこと、被告幹夫は右免許取得後右事故惹起までの間特段の違反歴事故歴はないこと、以上のとおり認められ、右認定を左右する証拠はない。

右認定事実によれば、被告幹夫は右事故当時両親である被告龍二及び被告俊子らと同居し、その扶養の下に学業に勤しむ高校生であり、特段自動車の運転をしなければならない立場にあるものでもなく、加害車両はいわば遊びの目的の玩具として購入されたのであるが、両親である被告龍二及び被告俊子としては、被告幹夫が肉体的にも精神的にも未熟で、運転免許をとつて間もなく、特段の収入もなく、賠償能力もないのに、場合によつてはわずかな不注意によつて容易に他人を殺傷しうる危険性を有する自動二輪車を購入するについて、これを容認して援助する以上、法定の監督義務者として、被告幹夫に加害車両の危険性を十分認識させ、安全運転について厳重に注意し指導して、事故の発生を未然に防止するために、高度の監督義務を尽くすべきであつたものというべきである。

しかるに、被告龍二及び被告俊子が運転免許を有していなかつたことは前記認定のとおりであり、この点からみて、右被告らは被告幹夫の安全運転の指導監督を十分なし得る知識、能力を有していたかどうか疑問であり、また、本件全証拠によつても、日常被告龍二及び被告俊子が被告幹夫に対し、右監督義務を尽くしたといいうる措置を講じていた形跡はないものと認められるので、被告龍二及び被告俊子には右監督義務の懈怠があつたものといわざるを得ない。

そして、前記二1認定の事故態様、被告幹夫の過失内容に鑑みると、本件事故は、被告幹夫が直線のみとおしのよい道路で、付近に他車両は走行しておらず、被害者も事前に認めていたのに、その注視を欠く等の基本的な安全運転義務を怠つたことにより惹起させ、しかも、加害車両購入後わずか一か月で死亡事故の発生に至つたというもので、日ごろ監督義務者による前記指導監督が十分尽くされていれば、これ程の短期間に右内容の過失によりこれ程重大な事故が発生することは通常回避しうるものと推認しうる。

従つて、被告龍二及び被告俊子の右監督義務違反と本件事故の発生とは因果関係を有するところ、前記のように右義務違反の内容が未熟な子の危険物使用の容認後の監督不十分という社会的に危険なものであつて、本件事故の発生自体右危険の直接的実現であるものといいうることからすると、右被告らは本件事故について民法七〇九条の不法行為責任を負うものというべきである。

三  権利侵害

請求原因3は当事者間に争いがない。

四  相続

請求原因4は当事者間に争いがない。

五  損害額

1  治療費 五六七〇円

弁論の全趣旨によれば、請求原因5(一)が認められる。

2  逸失利益 三六五万五七一六円

成立に争いのない甲第八号証、原告毅本人の供述により成立の認められる甲第一〇号証の一の1、2、二ないし二五、官公署作成部分の成立に争いがなくその余の部分について右供述により成立の認められる甲第一一号証、原告毅本人の供述(一部)、弁論の全趣旨によれば、造は明治三四年三月一日生の事故当事七八歳の男性で、二五年来自宅において農業のかたわら金網製作業を営み、一〇年位前からは二男の原告毅もこれを手伝つていたこと、金網製作業は、元請先から持ち込まれた金属材料を自宅に設置した特殊な機械によつて織り金網にしあげるというもので、事故当時には現場作業はもつぱら原告毅が行うようになつており、造は技術的な指導助言や取引先との接触等の手伝いをする程度であつたこと、この金網製作業の取引先はほとんど藤田金網という企業で、その取引による売上高は昭和五二年二月から昭和五四年五月までの二八か月間に合計一四一八万九九八九円であり、月当りにすると五〇万六七八五円(円未満切り捨て、以下同様)となること、これに要する経費は一応は機械の電気代、油代程度でさほどの額に達しないこと、右金網製作業による収入については、対税上すべて造名義で所得申告をし、原告毅名義では申告しておらず、事故の前年の昭和五三年の右造の申告額は三〇〇万円であつたこと、竹造の死後、その二男原告毅を長男原告勇が手伝つて家業を継続しているが、収入は月四〇万円位にまで低下していること、以上のとおり認められ、原告毅本人の供述中認定に反する部分は前掲甲七号証(司法巡査に対する原告毅の供述調書)に照らしただちに採用し難く、他に右認定を左右する証拠はない。

右認定の金網製作業の内容規模、造の年齢、右家業に対するその関与の程度、元請先との取引高、所得申告の状況、造死亡後の減収の程度等を総合考慮し、造の右家業に対する本件事故当時の寄与に基く労働価値部分を金銭に評価すると、昭和五四年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計学歴計男子労働者六五歳以上の年間平均給与額二二三万一〇〇〇円を下らないものと認めるのが相当である。

前掲甲第七号証、原告毅本人の供述によれば、造は、本件事故当時、妻である原告スヱノ(明治三九年一〇月一〇日生)及び二男である原告毅(昭和七年八月二二日生)と同居していたことが認められ、右認定の同居の家族数とその年齢並びに前記家業の実態等に鑑みると、造の逸失利益算出における生活費控除割合は四割と認めるのが相当である。

また、前記造の事故当時の年齢が七八歳であることからすると、造の就労可能年数は三年と認めるのが相当である。

そこで、造の家業における労働価値評価分年収二二三万一〇〇〇円から生活費として四割を控除し、これに就労可能年数三年に対応する新ホフマン係数二・七三一を乗じて得た三六五万五七一六円が造の逸失利益と認めることができる。

3  慰藉料 一一〇〇万円

前記認定の造の年齢、職種、家族状況、本件事故態様等総合考慮すると、慰藉料としては、相続人ら合計で一一〇〇万円と認めるのが相当である。

4  葬祭費 三五万円

弁論の全趣旨によれば、造の葬儀費用として三五万円を要したものと認められる。

5  合計 一五〇一万一三八六円

六  過失相殺

本件事故の状況については前記二1認定のとおりであるところ、この事実関係からすると、右事故の際、造にも道路横断にあたつて左右の安全の確認を怠り漫然と犬にひつぱられて車道上に出た過失があるものと認められる。

そこで、この造の過失内容からみて、これを損害賠償額の算定にあたつて斟酌するのが相当と認めるところ、その程度は、右事故の態様、双方の過失の内容程度、現場道路及び周辺の状況、造の年齢等を総合考慮し、前記五の損害額から一〇パーセントを減ずることをもつて相当と認める。

従つて、被告らにおいて賠償すべき損害額合計は一三五一万〇二四八円となり、これを原告らに相続分に応じて按分すると、左のとおりとなる。

1  原告スヱノ 三分の一 四五〇万三四一六円

2  原告勇、原告毅、原告秀子 各九分の二 各三〇〇万二二七七円

七  填補 合計一二六一万五六七〇円

請求原因6は当事者間に争いがない。

そこで、右填補額を原告らの相続分に応じて按分すると、左のとおりとなる。

1  原告スヱノ 三分の一 四二〇万五二二三円

2  原告勇、原告毅、原告秀子 各九分の二 各二八〇万三四八二円

八  弁護士費用

本訴の内容、審理の経過、原告らの認容額等を総合考慮すると、弁護士費用は原告らについて左のとおりと認めるのが相当である。

1  原告スヱノ 三万円

2  原告勇、原告毅、原告秀子 各二万円

九  結論

よつて、原告らの本訴請求は、被告ら各自に対し、原告スヱノは前記六1の額から前記七1の額を控除した残金二九万八一九三円に前記八1の額を加算した金三二万八一九三円、原告勇、原告毅及び原告秀子は前記六2の額から前記七2の額を控除した各残金一九万八七九五円に前記八2の額を各加算した各金二一万八七九五円、並びに右各金員に対する本件事故の日である昭和五四年五月一八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢延正平)

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